交通事故による後遺障害について

高次脳機能障害

1 高次脳機能障害とは

(1) 高次脳機能障害の意義

人間の脳の機能(役割)のうち、認知、行為(の計画と正しい手順での遂行)、記憶、思考、判断、言語、注意の持続といった人間らしい行動を可能にする機能を、高次脳機能といいます。

そして、脳の損傷により高次脳機能に障害が生じるのが高次脳機能障害です。

(2) 高次脳機能障害の具体的な症状

かつては「失語」「失認」「失行」という比較的、わかりやすい諸症状を意味するものとして用いられてきたましたが、最近は、認知障害や情動障害を含む全般的な情動・人格の障害(他人からわかりにくい障害)を意味するようになってきました。

現在では、典型的な症状としては、次のものがあるとされます。

① 認知障害 記憶・記銘力障害、注意・集中力障害、遂行機能障害など。

② 行動障害 周囲の状況に合わせた適切な行動ができない、複数のことを同時に処理できない、職場や社会のマナーやルールを守れない、話が回りくどく要点を相手に伝えることができない、行動を抑制できない、危険を予測・察知して会費的行動をすることができない、など。

③ 人格変化 受傷前には見られなかった発動性低下や抑制低下など。

こうした症状により、社会復帰が困難となるケースが多くみられます。

 

2 自賠責保険の後遺障害等級認定手続きにおける高次脳機能障害の取り扱い

(1) 審査主体

脳外傷による高次脳機能障害が残存する症例については、「特定事案」として位置づけられたうえで、専門医などで構成員とする「自賠責保険審査会 高次脳機能障害専門部会」という特別の部署で審査されます。

(2) 審査開始基準

厚生労働省に設置された「自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会」は、平成23年3月4日、「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」(報告)を発表し、その中で、脳外傷による高次脳機能障害として審査の対象とするかどうかの基準について、それまでの審査対象基準に対する改定案を発表しました。現在はこの改定案に従い審査を開始するかどうかを決めていると思われます。

その改定案は、次のとおりです。

【高次脳機能障害審査の対象とする事案】(改定案)

.後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められる(診療医 が高次脳機能障害または脳の器質的損傷の診断を行っている)場合

全件高次脳機能障害に関する調査を実施の上で、自賠責保険(共済)審査会において審 査を行う。

.後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められない(診療 医が高次脳機能障害または脳の器質的損傷の診断を行っていない)場合

以下の①~⑤の条件のいずれかに該当する事案(上記A.に該当する事案は除く)は、 高次脳機能障害(または脳の器質的損傷)の診断が行われていないとしても、見落とされ ている可能性が高いため、慎重に調査を行う。

具体的には、原則として被害者本人および家族に対して、脳外傷による高次脳機能障害 の症状が残存しているか否かの確認を行い、その結果、高次脳機能障害を示唆する症状の 残存が認められる場合には、高次脳機能障害に関する調査を実施の上で、自賠責保険(共済)審査会において審査を行う。

①        初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後 遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷等の診断がなされている症例

② 初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、認知・行動・情緒障害を示 唆する具体的な症状、あるいは失調性歩行、痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやす い神経系統の障害が認められる症例

(注)具体的症状として、以下のようなものが挙げられる。 知能低下、思考・判断能力低下、記憶障害、記銘障害、見当識障害、注意力低下、発動性低下、抑制低下、自発性低下、気力低下、衝動性、易怒性、自己中心性

③  経過の診断書において、初診時の頭部画像所見として頭蓋内病変が記述されている症 例

④  初診時に頭部外傷の診断があり、初診病院の経過の診断書において、当初の意識障害

(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3~2桁、GCSが 12 点以下)が少 なくとも6時間以上、もしくは、健忘あるいは軽度意識障害(JCSが1桁、GCSが 13~14 点)が少なくとも1週間以上続いていることが確認できる症例

⑤  その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例

(注)上記要件は自賠責保険における高次脳機能障害の判定基準ではなく、あくまでも高次脳 機能障害の残存の有無を審査する必要がある事案を選別するための基準である。

(3) 高次脳機能障害の有無の判定基準

自賠責保険における後遺障害等級認定手続きにおいては、まず、①高次脳機能障害にあたるかどうかという点が問題となり、この点が肯定されると次に、②どの等級に該当するかという点が問題になってきます。

しかし、高次脳機能障害は、言動や行動に異常が見られるにもかかわらず、身体的には比較的異常がないように見受けられるケースが多く(ただし、四肢麻痺などが併発する場合もあります。)、外見的には正常であるかのように見えるので、「見過ごされやすい障害」という特性があるとされます。

また、自賠責保険においては、高次脳機能障害は脳外傷に由来する脳の器質的病変に基づくものとして位置づけられているに注意が必要です(この点で、WHOが提唱したいわゆるMTBIの定義と異なりす。)。

そこで、高次脳機能障害の症状と障害を的確に把握するためにどのような手法を採るべきかという点が問題となってきますが、現在では、脳外傷による高次脳機能障害の症状を医学的に判断するためには、次の点が重要なポイントとされています。

① 意識障害の有無とその程度・長さの把握

脳外傷直後に6時間以上意識障害が継続するケースでは、永続的な脳機能障害が残ることが多いとされることから、意識障害が重要なポイントとされています。

② 画像資料上で外傷後ほぼ3か月以内に完成する脳室拡大・びまん性脳萎縮の所見

自賠責保険において高次脳機能障害は、脳外傷に由来する脳の器質的病変に基づくものとして位置づけられているため、画像上の所見が重要なポイントとされています。

③ 脳外傷による高次脳機能障害特有の症状(他の疾患との識別)

頭部外傷を契機として具体的な症状が発現し、次第に軽減しながらその症状が残存するケースで、びまん性軸索損傷とその特徴的な所見が認められる場合には、脳外傷による高次脳機能障害と事故との因果関係が認められるとされています。

逆に上記のような経過をたどらない症状、例えば、事故から数か月以上を経て症状が出現し、次第に増悪するようなケースなどでは、因果関係が否定されやすいとされています。

(4) 高次脳機能障害の具体的な等級認定基準

ア 等級の評価の手法

(ア) 4能力による評価

高次脳機能障害については、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力及び社会行動能力の4つの能力(以下「4能力」という。)の各々の喪失の程度に着目し、評価が行われます。

その際、複数の障害が認められるときには、原則として障害の程度の最も重篤なものに着目して評価を行うこととされます。たとえば、意思疎通能力について第5級相当の障害、問題解決能力について第7級相当の障害、社会行動能力について第9級相当の障害が認められる場合には、最も重篤な意思疎通能力の障害に着目し、第5級の1の2として認定されます。
ただし、高次脳機能障害による障害が第3級以上に該当する場合には、介護の要否及び程度を踏まえて認定することとされています。

 (イ)  評価の着眼点

高次脳機能障害は、4能力に係る喪失の程度により評価が行われますが、その評価を行う際の要点は以下のとおりとされています。

① 意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)

職場において他人とのコミュニケーションを適切に行えるかどうか等について判定する。主に記銘・記憶力、認知力又は言語力の側面から判断を行う。

②  問題解決能力(理解力、判断力等)

作業課題に対する指示や要求水準を正確に理解し適切な判断を行い、円滑に業務が遂行できるどうかについて判定する。主に理解力、判断力又は集中力(注意の選択等)について判断を行う。

③  作業負荷に対する持続力・持久力

一般的な就労時間に対処できるだけの能力が備わっているかどうかについて判定する。精神面における意欲、気分又は注意の集中の持続力・持久力について判断を行う。その際、意欲又は気分の低下等による疲労感や倦怠感を含めて判断する。

④  社会行動能力(協調性等)

職場において他人と円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうか等について判定する。主に協調性の有無や不適切な行動(突然大した理由もないのに怒る等の感情や欲求のコントロールの低下による場違いな行動等)の頻度についての判断を行う。

イ 具体的な等級の認定方法

(ア) 等級認定の具体的な基準

高次脳機能障害の具体的な等級は、下記の基準により認定されます。

なお、高次脳機能障害認定システム確立検討委員会が平成12年12月18日に発表した「自賠責保険における高次脳機能障害認定システム」という名称の報告書では、各等級基準の「補足的な考え方」を示しています。そこで、下記の各基準の説明においても、それらの「補足的な考え方」を示しておきます。

Ⅰ 介護が必要とされる程度の障害の等級

ⅰ 高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」は、別表第一の第1級第1号に該当とされます。

以下のa又はbが該当します。

a  重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの

b  高次脳機能障害による高度の痴ほうや情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの

(補足的な考え方)

身体機能は残存しているが度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回りの動作に全面的介護を要するもの

  「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」は、別表第一の第2級第1号に該当とされます。

以下のa、b又はcが該当します。

a  重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの

b  高次脳機能障害による痴ほう、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの

c  重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの

(補足的な考え方)

著しい判断力の低下や情動の不安定などがあ って、1人では外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことがで きても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの

Ⅱ 労務が制限される程度の等級

 「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの」は、第3級第3号とされます。

以下のa又はbが該当します。

a  4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの

(具体的な例)

その1  意思疎通能力が全部失われた例

「職場で他の人と意思疎通を図ることができない」場合

その2  問題解決能力が全部失われた例

「課題を与えられても手順とおりに仕事を全く進めることができず、働くことができない」場合

その3  作業負荷に対する持続力・持久力が全部失われた例

「作業に取り組んでもその作業への集中を持続することができず、すぐにその作業を投げ出してしまい、働くことができない」場合

その4  社会行動能力が全部失われた例

「大した理由もなく突然感情を爆発させ、職場で働くことができない」場合

(補足的な考え方)

自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活 範囲は自宅に限定されていない。また、声掛け や、介助なしでも日常の動作を行える。しかし、記憶力や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの

 「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」は、第5級第5号とされます。

以下のa又はbが該当します。

a  4能力のいずれか1つ以上の能力の大部分が失われているもの

(問題解決能力の大部分が失われている例)

「1人で手順とおりに作業を行うことは著しく困難であり、ひんぱんな指示がなければ対処できない」場合

b  4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの

(補足的な考え方)

単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの

 「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの」は、第7級4号とされます。

以下のa又はbが該当します。

a  4能力のいずれか1つ以上の能力の半分程度が失われているもの

(問題解決能力の半分程度が失われているものの例)

「1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、時々助言を必要とする」場合

b  4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの

(補足的な考え方)

一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの

 「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」は、第9第10号とされます。

高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つ以上の能力の相当程度が失われているものが該当する。

(問題解決能力の相当程度が失われているものの例)

「1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまには助言を必要とする」場合

(補足的な考え方)

一般就労を維持できるが、問題解決能力などに傷害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの

Ⅲ 介護は必要でなく、かつ、通常の労務に服することができる程度の障害の等級

  「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの」は、第12級第13号とされます。

4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているものが該当する。

 「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの」は、14級9号とされます。

MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるものが該当する。

なお、高次脳機能障害は、脳の器質的病変に基づくものであることから、MRI、CT等によりその存在が認められることが必要であるとされています。
また、神経心理学的な各種テストの結果のみをもって高次脳機能障害が認められないと判断することなく、4能力の障害の程度により障害等級を認定するとさrています。

(イ) 高次脳機能障害整理表

上記(ア)で示した高次脳機能障害に関する障害の程度別の例は例示の一部であり、認定基準に示されたもの以外の4能力の喪失の程度別の例については、「高次脳機能障害整理表」を参考にすることとされています。

「高次脳機能障害整理表」は、こちらをご覧ください。 → 高次脳機能障害整理表

(ウ) 高次脳機能障害整理表の「喪失の程度」と等級認定基準の労働能力の喪失の程度の関係

両者の関係は、以下のとおりとされています。

「A: 多少の困難はあるが概ね自力でできる」は、能力を「わずかに」喪失(第14級の認定基準参照)

「B: 困難はあるが概ね自力でできる」は、能力を「多少」喪失(第12級の認定基準参照)

「C: 困難はあるが多少の援助があればできる」は、能力の「相当程度」を喪失(第9級の認定基準を参照)

「D: 困難はあるがかなりの援助があればできる」は、能力の「半分程度」を喪失(第7級の認定基準を参照)

「E: 困難が著しく大きい」は、能力の「大部分」を喪失(第5級の認定基準を参照)

「F: できない」は、能力の「全部」を喪失(第3級の認定基準を参照)