弁護士コラム

交通事故により遷延性意識障害(植物状態)となった被害者の損害として、①将来の治療費が認められるか、②将来の治療費はいつまでの分が認められるか、③成年後見人の報酬分の費用が認められるか、について判断した裁判例 - 札幌地方裁判所判決平成28年3月30日判決 札幌地方裁判所平成27年(ワ)第558号

事案

横断歩道を横断中に、普通貨物自動車にはねられ頭部外傷による遷延性意識障害(植物状態)の後遺障害(1級1号)となってしまった被害者について、その成年後見人が事故の加害者に損害賠償請求をした事案。

 

ポイント

1 将来の治療費は、損害として認められるか。

2 将来の治療費は、いつまでの分が損害として認められるか。

3 成年後見の費用は、損害として認められるか。

 

解説

1 将来の治療費は、損害として認められるか。

遷延性意識障害となってしまった場合、将来にわたって、医療機関に入院したり、または、施設での入所介護もしくは自宅での介護を要し、その費用が多額に及ぶことが多い。

こうした損害について、加害者側の保険会社からは、健康保険や高額療養費、重度心身障害者医療費助成制度のほか、各種の福祉制度などの給付を受けられることを理由として、損害としては控除すべき(損益相殺すべき)との主張がされることが多い。

しかし、本判決は、(健康保険など)「同様の保険給付等の存続が確実であるということはできないから、損害から控除すべき保険給付等は,当初の3年のものであるというべきである。」として、原則として損害から控除すべきでない(損益相殺すべきでない)とした。

本判決は、健康保険やその他の福祉的給付が、今後も確実に存在するとは限らないことを踏まえ(特に健康保険の自己負担分の割合)、これらの給付が損害の填補を目的としたものでないことを重視したといえ、妥当である。

 

2 将来の治療費は、いつまでの分が損害として認められるか。

将来の治療費が損害として認められるとしても、いつまでの分が認められるのかが問題となる。

この点、加害者側の保険会社からは、遷延性意識障害(植物状態)となった者は、通常の人に比べて余命が短いので、限定された期間でのみ損害として認められべきだとする主張がされることがある。

しかし、遷延性意識障害(植物状態)となった者が、その後何年生存するかは個別差にもよるし、医療技術の発展により余命期間も伸びてきているといわれている。また、裁判所も含めて何人も、「この被害者はあと何年しか生きられない。」などと断言することは許されない。現実に生きている被害者の人格を無視するのに等しいからである。

そこで、本判決も平均余命の期間(本事案では46年)について、将来の治療費を損害として認めた。

 

3 成年後見の費用は損害として認められるか。

交通事故により遷延性意識障害(植物状態)になってしまった場合、その被害者の判断能力は失われてしまうので、損害賠償請求をしたり、被害者の有する財産を管理するために、弁護士である成年後見人が付されることが多い。

そして、その成年後見人には被害者に対する報酬請求が家庭裁判所により認められるので、その報酬分の費用が、交通事故の損害として認められ手加害者に請求できるか、問題となる。

この点、本判決は、交通事故と相当因果関係のある成年後見費用、つまり、損害賠償請求をし、賠償金を獲得したことの報酬についての費用として、本判決は2000万円を認めた。これは、弁護士が交通事故の損害賠償請求をした場合、弁護士費用として賠償金の10%が損害として認められていることとのバランスをとったものと考えられ、妥当である。

 

弁護士 杉島健二(岐阜県弁護士会所属)

すぎしま法律事務所(岐阜市神田町1-8-4プラドビル7A)

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高次脳機能障害、遷延性意識障害(植物状態)、CRPS、大動脈解離、むち打ちなどたくさんの後遺障害事故や死亡事故を解決してきました。地元密着の弁護士です。弁護士経験15年以上。

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