故意に(わざと)事故を起こした場合や、飲酒運転、無免許運転など、事故態様が極めて悪質な場合、自動車保険は支払われるのでしょうか。
以下に整理していきます。
1 故意による事故の場合
(1) 任意保険
保険法第17条1項は、損害保険について、「保険者は、保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって生じた損害をてん補する責任を負わない。」と規定し、故意の場合を保険金の支払いをしない事由の一つとしています(「免責事由」といいます。)。また、保険法第80条1号は、傷害疾病定額保険について、同様の規定をおいています。
これは、故意によって事故を起こすということは、通常は何らかの犯罪が成立しますが、犯罪を成立させて保険金を受け取ることを認めてしまえば、それ自体社会的正義に反することですし、犯罪を誘発してしまう恐れがあることなどが理由とされています。
もっとも、対人保険や対物保険についても免責事由とすることは、被害者保護の観点から妥当でないとの意見もあります。
しかし、偶然に発生する交通事故の損害を分散したり、交通事故の被害者保護といった点が、自動車保険の本来の制度趣旨なので、さらに犯罪の被害者保護までも図ることは、自動車保険の本来の制度趣旨を超えてしまうことになってしまいます。そこで、故意の場合に自動車保険が支払われないのは、やむを得ないのではないかと考えられます。
もっとも、最高裁平成5年3月30日判決は、「本件免責条項は、傷害の故意に基づく行為により被害者を死亡させたことによる損害賠償責任を被保険者が負担した場合については適用されないものと解するのが相当である。」として、傷害の故意はあっても、殺人の故意のない場合には、保険金は支払われるとしている点に注意が必要です。
(2) 自賠責保険
自賠責保険についても、自動車損害賠償補償法第14条は、故意により事故を起こした場合について、保険金の支払いの免責事由になる旨の規定をおいています。
しかし、自動車損害賠償補償法第16条1項は、被害者から保険会社への直接請求権を認めており、保険会社はこの請求を拒否できません。自動車損害賠償補償法は、人身事故の被害者の救済を目的としているので、故意による事故の場合でも、被害者からの請求に対しては保険金を支払うこととされているのです。
そして、被害者からの直接請求に応じて保険金を支払った保険会社は、その分を政府に請求することになります(自動車損害賠償補償法第16条4項)。さらに、保険会社に保険金相当額を支払った政府は、故意に事故を起こした者らに対して、その分を請求することになります(自動車損害賠償補償法第76条2項)。
2 飲酒運転や無免許運転の事故の場合
保険法などの法律上は、故意の場合と違って、飲酒運転や無免許運転で起きた事故について免責事由としていません。
しかし、免責事由は、法律に定めのあるもののほかに、各保険契約の約款にも定められています。
そして、自動車保険は、大きく分けて、事故の相手側の損害を補償することを目的とする保険と、自分の側(や同乗者など)の損害を補償することを目的とする保険に分類することができます。
順にご説明いたします。
(1) 相手側の損害を補償することを目的とする保険
この種の保険には、賠償責任保険(対人保険、対物保険)があります。
この種の保険について、各保険会社は約款上も免責事由としていないのが通例です。
なぜなら、自動車保険の制度趣旨の一つである被害者保護の観点からは、何の落ち度もない被害者にとっては、加害者がたまたま飲酒運転や無免許運転をしていたからといって、補償を受けられないというのは妥当でないからです。
(2) 自分の側の損害を補償することを目的とする保険
この種の保険には、傷害保険(人身傷害補償保険、自損事故保険、無保険車傷害保険、搭乗者保険)や車両保険があります。
この種の保険については、各保険会社は約款上、免責事由としているのが通例です。
なぜなら、自ら飲酒運転や無免許運転といった違法行為をして事故を起こした者に、保険金を支払うのは公平ではないからです。
※ 以上簡単にご説明しましたが、どのような場合が免責事由となるかは、各保険会社の約款の文言や解釈により決まりますから、必ず、その事故に適用される保険の約款の文言をご確認ください。ご不明な場合は、必ず弁護士に相談されることをお勧めします。