解決事例

解決事例 - むち打ち症と素因減額 

解決事例 2015年12月3日

事案の概要

40代後半の主婦である被害者が運転する被害車両が交差点で停止していたところ、右折してきた加害車両が反対車線を越えて被害車両に衝突し、被害者が頚椎捻挫などを負い、自賠責で14級の後遺障害等級となった事案。被害者に頚椎症などの既往症があった。

訴訟での争点

訴訟では、加害者である被告から、被害者である原告に頚椎症などの既往症があるとして、7割の素因減額がされるべきと主張がされた。

訴訟での解決

訴訟において、裁判所は、原告に素因減額されるべき要素がないという前提に、休業損害として約61万円、通院慰謝料として約97万円、後遺障害逸失利益として約77万円、後遺障害慰謝料として110万円、その他含めて合計約367万円での和解案を提示した。

そして、被害者である原告と加害者である被告は、裁判所が提案した和解案を受諾した。

ポイント

本件のようなむち打ち症の事案において、被害者に頚椎症などの既往症がある場合に、加害者側の保険会社や、被告訴訟代理弁護士は、被害者に発生したむち打ち症などには、被害者が交通事故に遭う前からもともとあった素因(要因)が大きく影響しているとして、大幅な素因減額を主張してくることがよくみられます。つまり、被害者の症状と交通事故との間には因果関係(原因と結果の関係)はあるのだけれども、被害者の現在の症状は、交通事故が原因の部分と、交通事故の前から原告にもともとあった素因(既往症など)が原因の部分とがあって、後者の部分については、損害額から割り引くべきであるという主張です。

しかし、最近の下級審判決の傾向を見ると、被害者に何らかの既往症があったとしても、その既往症が、その被害者の年齢などに鑑みて、通常の変性の範囲内である(病的な変性でない)場合は、素因減額をしない傾向にあるといえるでしょう。

本件でも、被害者である原告に、素因減額されるべきような既往症はなく、裁判所もそれを前提として、上記のような和解案を出してきました。

アドバイス

むち打ち症などの神経症状の後遺障害の事案において、加害者側の保険会社や加害者の代理人弁護士が、被害者のわずかな既往症や過去の通院歴をとらえて、明かに過大かつ不当な素因減額を主張してくることがよく見られます。

このような場合は、訴訟を提起し、原告には素因減額されるべき事情がないことについての主張立証を尽くすなどによって※1、裁判所に被害者には素因減額がされるべき事情がないことを認識させる必要があります。

※1 正確には、むしろ、被告側に素因減額されるべき事情がないことについての実質的な主張立証責任があると考えられます。