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遺留分とは? - 遺言書の内容が、自分の取り分の少なかったときは、どうすればいいの

弁護士コラム 2020年10月10日

1 定義 

遺留分とは、わかりやすく言うと、一定の相続人が、被相続人(亡くなられた親族の方)の遺産から、被相続人の遺言書の内容にかかわらず、一定の遺産を受け取ることができる権利のことを言います。

2 趣旨 

被相続人が亡くなると、遺言書のない場合は、被相続人の遺産は、法律の定めに従って、相続人に相続されます(法定相続)。

これに対して、遺言書がある場合は、遺言書の内容に従って、相続人らに遺産が承継されます。例えば、被相続人が父で、相続人が母、兄、弟の3人の場合に、父は、遺言書によって、母と兄にだけに遺産を与え、弟には遺産を全く与えないということもできます。なぜなら、遺言は遺言をする人の意思が尊重されるべきなので、遺言書の内容は、遺言書を書く被相続人が自由に定めることができるからです。これを、遺言自由の原則といいます。

しかし、相続の趣旨は、相続人の生活保障や潜在的持ち分の承継といった側面もありますので、一定の相続人が、遺産を全く受け取ることができなかったり、ほとんど受け取ることができないというのでは、不都合が生じます。

そこで、遺言自由の原則に対する例外として、遺言の内容にかかわらず、一定の相続人に、一定の遺産を受け取ることができる権利を保障する必要があります。この権利のことを遺留分といい、遺留分を受け取ることのできる人を遺留分権利者といいます。

3 遺留分権利者

では、具体的にだれが遺留分を受け取ることができるかということですが、法律上、遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人です。兄弟姉妹に遺留分はない点に注意が必要です。

 4 遺留分の具体的内容

まず、遺留分を算定するための財産の価格は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価格にその贈与した財産の価格を加えた額から債務の全額を引いた額です。

遺留分を算定するための財産の価格 = 相続時の財産 + 贈与した財産 - 債務の全額

 そして、遺留分の割合は、相続人がが直系尊属のみの場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1です。これらの割合は、相続人全員分の割合ですから、各相続人の具体的な遺留分は、これらの割合に法定相続分をかけた割合となります。

例えば、次のとおりです。

① 相続人が直系尊属だけの場合

相続人が、父母だけの場合、相続人全員の遺留分の割合は3分の1で、父母それぞれの相続分は2分の1なので、それぞれの具体的な遺留分は、次のとおりとなります。

父の遺留分 = 3分の1 × 2分の1 = 6分の1

母の遺留分 = 3分の1 × 2分の1 = 6分の1

② 相続人が直系尊属だけでない場合

相続人全員の遺留分の割合は2分の1で、個々の相続人の具体的な遺留分は、この2分の1に法定相続分をかけることになります。

ア 相続人が、妻だけの場合

妻の遺留分 = 2分の1 × 1(法定相続分) = 2分の1

 イ 相続人が妻と子供2人(AB)の場合

妻の遺留分 = 2分の1 × 2分の1(法定相続分) = 4分の1

   子Aの遺留分 = 2分の1 × 4分の1(法定相続分) = 8分の1

   Bの遺留分 = 2分の1 × 4分の1(法定相続分) = 8分の1

ウ 相続人が妻と父母の場合

妻の遺留分 = 2分の1 × 3分の2(法定相続分) = 3分の1

   父の遺留分 = 2分の1 × 6分の1(法定相続分) = 12分の1

   母の遺留分 = 2分の1 × 6分の1(法定相続分) = 12分の1

 

5 権利の行使方法

(1) 行使の方法については制限がなく、裁判でもいいし裁判外でも行使可能です。しかし、裁判外で行使する場合は、行使したかどうか、期間制限との関係でいつ行使したかという点が、後日問題とならないように配達証明付きの内容証明郵便で行使することが望ましいです。

(2) 相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年、または、相続開始の時から10年を経過すると行使できなくなります。

「親が死んで、兄弟と遺産分割でもめている。」

「遺言書が出てきたが、自分の取り分が少ない。納得がいかない!

「子供たちが自分の死後争わないよう、遺言書を残しておきたい。

といったとき、

 すぎしま法律事務所(弁護士 杉島健二)に、ご相談ください。

 岐阜市神田町1-8-4プラドビル7A(岐阜市役所南庁舎すぐ近く。)エレベーターあり

 弁護士 杉島健二(岐阜県弁護士会所属)

 058-215-7161 sugi.4555@oboe.ocn.ne.jp

成年後見制度とは? - すぎしま法律事務所(弁護士 杉島健二)

弁護士コラム 2020年8月12日

1 成年後見制度について

成年後見制度とは、判断能力が不十分な人に代わって、その人のために、いろんな契約や財産管理などをする人を用意する制度をいいます。判断能力が不十分な人のための意思決定支援制度ともいえます。

判断能力が十分でないと、施設入所契約をしたり遺産分割をしたり、あるいは、交通事故の損害賠償請求をすることなどが適切に行うことができないおそれがあります。そうすると、場合によっては、契約内容が自分に不当に不利になってしまったり、自分の権利実現が不十分となってしまう恐れがあります。

そこで、判断能力が不十分な人のために、成年後見制度が用意されているのです。

この成年後見制度には、法定後見と任意後見とがあります。

法定後見とはすでに判断能力が不十分にある状態の人が利用する制度であるのに対して、任意後見は現在は正常だけども、将来、自分の判断能力が不十分になることに備える人が利用する制度です。

 

2 法定後見について

法定後見とは、判断能力が不十分な状態にある人のために、判断能力の程度に応じて、成年後見、保佐、補助をつける制度です。

つまり、①成年後見とは、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」人のための制度です。

②保佐とは、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である」人のために制度です。

③補助とは、「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である」人のための制度です。

法定後見は、成年後見人、保佐人、補助人を裁判所が選任し、これらの権限が予め法律上決っている点に特色があります。

 

3 任意後見について

任意後見とは、現在は十分な判断能力がある人が、将来、判断能力が不十分となった場合にに備えて、予め、自らが選んだ代理人に、代わりにしてもらいたいことについての代理権を与える制度です。

本人が判断能力があるうちに、代理人やその権限を自ら決めることができる点に特色があります。

 

※ 当事務所での成年後見制度への対応

当事務所では、様々な事案の成年後見などの申し立てや、成年後見人などの業務を担当してきました。

たとえば、認知症の高齢者の方の遺産分割や施設入所契約、交通事故外傷により高次脳機能障害や遷延性意識障害(いわゆる「植物状態」)となられた方の損害賠償請求などを成年後見業務を通じて担当してきました。

 

認知症や交通事故外傷などにより、ご家族の方やご本人の財産管理などにご心配な方は、一度、ご相談ください。

 

 

 

 

弁護士 杉島健二(岐阜県弁護士会所属)

すぎしま法律事務所(岐阜市神田町1-8-4プラドビル7A)

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最高裁判所が、後遺障害逸失利益の損害賠償について定期金払い方式を認めました。― 最高裁判所令和2年7月9日判決

弁護士コラム 2020年8月10日

〇 事案
被上告人は、4歳の時、交通事故に遭い、脳挫傷、びまん性軸索損傷などの傷害を負い、その後、自賠責後遺障害第3級2号に該当する高次脳機能障害の後遺障害が残った。被上告人は、18歳になる翌月からその終期である67歳になる月までの取得すべき収入額を、その間毎月に、定期金により支払うことを求めていた。

〇 争点
1 交通事故の被害者が後遺障害逸失利益について定期金賠償を求めている場合に、それが定期金賠償の対象となるか。
2 交通事故に起因する後遺障害逸失利益につき定期金賠償を命ずるにあたって、被害者の死亡時を定期金賠償の終期とすることができるか

〇 判決の判断
1について
判決は、「以上によれば、交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、上記目的及び理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となるものと解される。」と判断して、被害者が定期金払い方式を求めている場合に、これを原則として肯定した。

2について
判決は、「上記後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずるに当 たっては、交通事故の時点で、被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを 要しないと解するのが相当である。」と判断して、判決後に被害者が死亡したとしても、賠償義務者は、その時点で定期金賠償の支払い義務を原則として免れないとした。

〇 検討
1について
将来一定時期ごとにもらえる金銭(例えば、毎月もらう給料など)に関する損害賠償の支払い方式については、一括払い方式と定期金払い方式がある。
一括払い方式は、本来であれば将来の支払い時期にならないともらえない賠償金を、現在において全額を一括に支払ってもらえるという利点がある反面、本来支払ってもらう時期と現在と間の期間で発生する中間利息を賠償金から控除されるという欠点がある。この中間利息の控除が多額になり、その分、賠償金の額が大幅に減少して交通事故の被害者に極めて不利になることが問題視されてきた。
これに対して、定期金支払い方式は、こうした中間利息の控除がされないため、一括払い方式よりも賠償金が高額になるという利点がある反面、将来、賠償金の支払い義務者の資力に問題が生じた場合、賠償金の支払いが滞る可能性がある。また、民事訴訟法117条は、「定期金による賠償金を命じた確定判決の変更を求める訴え」(条文は、末尾を参照。)を認めており、これにより、判決後の事情によっては、定期金の賠償額が減額されたり、打ち切りになったりする可能性がある。
このように、一括払い方式と定期既払い方式には、それぞれ一長一短があるが、交通事故の被害者が定期金賠償方式を求めた場合には、原則的にその方式による賠償を認めた点に、本判決の意義がある。

2 について
後遺障害逸失利益とは、後遺障害によって得られなくなった収入分の利益なので、仮に被害者が判決後に死亡した場合は、定期金払い方式による逸失利益の賠償金は打ち切るべきではないかという指摘があった。
しかし、例えば、交通事故の被害者が妻や未成年子のある夫の場合、その後遺障害逸失利益はその夫の家族の生活費の原資となるが通常なので、夫の死亡を機に後遺障害逸失利益の賠償の支払いが打ち切られることの不当性は明らかである。
また、すでに、最高裁平成8年4月25日判決などは、後遺障害逸失利益の一時期払い方式による賠償について、被害者の死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮すべきものではない、としていた。
そこで、後遺障害逸失利益の定期金払い方式による賠償についても、判決後の被害者の死亡を支払い時期の終期としない、つまり、被害者の死亡の事実をもって後遺障害逸失利益の賠償義務は原則として消滅しない、とした点に、本判決の意義がある。
ただし、上記でも指摘した民事訴訟法117条の「定期金による賠償金を命じた確定判決の変更を求める訴え」により、被害者の死亡を機に、定期金の賠償額が減額されたり、打ち切りになったりする可能性がある点に注意が必要である。

〇 今後の課題
1 本判決を前提にしても、民事訴訟法117条が「定期金による賠償金を命じた確定判決の変更を求める訴え」を認めている以上、判決後の事情によっては、定期金の支払い額が減額したり、支払いが打ち切られる可能性がある。そこで、どのような場合に、確定判決の変更が認められるのかが、問題として残る。
また、定期金支払い方式の場合、加害者が加入する保険会社の経営状態いかんによっては、定期金の支払いが滞る可能性があることはすでに述べた通りである。
よって、後遺障害逸失利益の賠償について、被害者側が、一括払い方式か定期既払い方式かのいずれの方式により裁判上請求するかについては、これらの事情を踏まえて慎重に検討する必要がある。
2 なお、後遺障害逸失利益以外の損害項目、例えば、将来治療費、将来介護費、成年後見費用などについて定期金支払い方式が認められるかについては、最高裁判所においては未解決の課題である。

※ 参考条文
民事訴訟法第117条
口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができる。ただし、その訴えの提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限る。
2前項の訴えは、第一審裁判所の管轄に専属する。

※ 判決文については、最高裁判所のホームページをご覧ください。→ こちらです。

※ 高次脳機能障害、遷延性意識障害(いわゆる「植物状態」)の損害賠償については、こちらをご覧ください。

※ 交通事故などのご相談の予約は、こちらをご覧ください。

不法行為により傷害を負った被害者の母が、被害者が死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められる場合における母による固有の慰謝料請求の可否 - 最高裁第3小法廷昭和33年8月5日判決 最高裁判所第3小法廷昭和31年(オ)第215号

弁護士コラム 2020年5月25日

事案

交通事故により外傷を負った被害者の母がその固有の慰謝料を加害者に請求した事案。

ポイント

民法711条は、生命を侵害された被害者の父母、配偶者及び子が、加害者に対して損害賠償請求(親族らによる固有の慰謝料請求など)ができることを定めているが、傷害にとどまる場合に、これら親族が損害賠償請求できるかについて言及されていない。

そこで、民法711条を類推するなどして、生命侵害以外の場合にも、親族が固有の慰謝料請求などができるかが、問題となる。

判決の要旨

判決は、「前記のような原審認定の事実関係によれば、被上告人Mはその子の死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められるのであつて、かゝる民法七一一条所定の場合に類する本件においては、同被上告人は、同法七〇九条、七一〇条に基いて、自己の権利として慰籍料を請求しうるものと解するのが相当である。」などと述べて、遺族固有の慰謝料請求を肯定した。

 

交通事故により遷延性意識障害(植物状態)となった被害者の損害として、①将来の治療費が認められるか、②将来の治療費はいつまでの分が認められるか、③成年後見人の報酬分の費用が認められるか、について判断した裁判例 - 札幌地方裁判所判決平成28年3月30日判決 札幌地方裁判所平成27年(ワ)第558号

弁護士コラム 2020年5月16日

事案

横断歩道を横断中に、普通貨物自動車にはねられ頭部外傷による遷延性意識障害(植物状態)の後遺障害(1級1号)となってしまった被害者について、その成年後見人が事故の加害者に損害賠償請求をした事案。

ポイント

1 将来の治療費は、損害として認められるか。

2 将来の治療費は、いつまでの分が損害として認められるか。

3 成年後見の費用は、損害として認められるか。

解説

1 将来の治療費は、損害として認められるか。

遷延性意識障害となってしまった場合、将来にわたって、医療機関に入院したり、または、施設での入所介護もしくは自宅での介護を要し、その費用が多額に及ぶことが多い。

こうした損害について、加害者側の保険会社からは、健康保険や高額療養費、重度心身障害者医療費助成制度のほか、各種の福祉制度などの給付を受けられることを理由として、損害としては控除すべき(損益相殺すべき)との主張がされることが多い。

しかし、本判決は、(健康保険など)「同様の保険給付等の存続が確実であるということはできないから、損害から控除すべき保険給付等は,当初の3年のものであるというべきである。」として、原則として損害から控除すべきでない(損益相殺すべきでない)とした。

本判決は、健康保険やその他の福祉的給付が、今後も確実に存在するとは限らないことを踏まえ(特に健康保険の自己負担分の割合)、これらの給付が損害の填補を目的としたものでないことを重視したといえ、妥当である。

2 将来の治療費は、いつまでの分が損害として認められるか。

将来の治療費が損害として認められるとしても、いつまでの分が認められるのかが問題となる。

この点、加害者側の保険会社からは、遷延性意識障害(植物状態)となった者は、通常の人に比べて余命が短いので、限定された期間でのみ損害として認められべきだとする主張がされることがある。

しかし、遷延性意識障害(植物状態)となった者が、その後何年生存するかは個別差にもよるし、医療技術の発展により余命期間も伸びてきているといわれている。また、裁判所も含めて何人も、「この被害者はあと何年しか生きられない。」などと断言することは許されない。現実に生きている被害者の人格を無視するのに等しいからである。

そこで、本判決も平均余命の期間(本事案では46年)について、将来の治療費を損害として認めた。

3 成年後見の費用は損害として認められるか。

交通事故により遷延性意識障害(植物状態)になってしまった場合、その被害者の判断能力は失われてしまうので、損害賠償請求をしたり、被害者の有する財産を管理するために、弁護士である成年後見人が付されることが多い。

そして、その成年後見人には被害者に対する報酬請求が家庭裁判所により認められるので、その報酬分の費用が、交通事故の損害として認められ手加害者に請求できるか、問題となる。

この点、本判決は、交通事故と相当因果関係のある成年後見費用、つまり、損害賠償請求をし、賠償金を獲得したことの報酬についての費用として、本判決は2000万円を認めた。これは、弁護士が交通事故の損害賠償請求をした場合、弁護士費用として賠償金の10%が損害として認められていることとのバランスをとったものと考えられ、妥当である。

弁護士 杉島健二(岐阜県弁護士会所属)

すぎしま法律事務所(岐阜市神田町1-8-4プラドビル7A)

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高次脳機能障害、遷延性意識障害(植物状態)、CRPS、大動脈解離、むち打ちなどたくさんの後遺障害事故や死亡事故を解決してきました。地元密着の弁護士です。弁護士経験15年以上。

【初回相談は無料】【分割払い・後払い、弁護士費用特約が、利用可能】【被害者側の事務所です】

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