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介護事故の裁判例の検討 居室内のトイレに行こうとした介護施設利用者が転倒して頭部を負傷した事故について、離床センサーを設置すべき義務に違反したとして施設事業者に損害賠償責任が肯定された事例 - 大阪地方裁判所平成29年2月2日判決

弁護士コラム 2019年3月16日

大阪地方裁判所平成29年2月2日判決 平成29年(ワ)第7324号

第1 当事者、及び、当事者の関係
1 施設利用者(X)
Xは、本件事故時78歳の男性。
Xは、身体障害者等級2級(両下肢機能著しい障害2級及び両上肢機能軽度障害6級)及び第1種身体障害者(バス介護付き)の身体障害者手帳の交付を受けており、要介護2の認定を受けていた。
2 施設事業者(Y)
Yは、第一種社会福祉事業等を目的とする社会福祉法人であり、特別養護老人ホームに併設された施設(以下「本件施設」という。)において、在宅要介護者を短期間入所させて介護サービスを提供するユニット型指定短期入所生活介護事業(以下「本件事業」という。)を営んでいた。
3 施設利用者と施設事業者との関係
Xは、Yとの間で本件事業の利用契約(以下「本件契約」という。)を締結し、1か月につき1週間ないし10日間程度、本件事業を利用していた。
Xが本件事業を利用する際、主に本件施設4階の居室(以下、「本件居室」という。)を利用していた。この居室は、個室であり、ベッド、棚、テレビ等が備え付けられているほか、洗面台及びトイレが備わっていた。

第2 事実の経過、及び、諸事情など
① Xの運動能力について
関係各証拠により、Xはパーキンソン症候群等によって、歩行の際、ふらつきによる転倒の危険が大きい状態であり、Yの職員においてXの上記状態は認識されていた。
② Xによるナースコールの利用について
Xは本件施設を最初に利用した平成22年12月21日の際から一人でトイレに行こうとしており、Yの職員からナースコールをするように求められていたこと、しかし、Xはナースコールをせずに一人で歩いてトイレ等に行き続けており、後述する9月11日事故の後においてもそれは変わらず、Yの職員はそのことを認識していたこと、YはXに対してトイレに行く際はナースコールをするように再三厳重に注意をしていたことなどの事情があった。
なお、Xは判断能力等に問題はなかった。
③ Yには、離床センサー1台が用意されていたが、Xを含めて施設利用者への利用が検討されたことはなかった。
④ 先行事故
Xは、平成23年9月11日、本件事業を利用し、本件施設で生活をしていたところ、居室のトイレ内で転倒して頭部を打撲した。Xは、この打撲により後頭部痛や嘔吐等の症状を生じ、同月12日、当初の予定よりも早く帰宅した。
⑤ 本件事故
Xは、平成23年9月23日から、本件事業を利用し、本件施設4階の居室で生活していた。
Xは、同月30日午前3時55分頃、ナースコールによりYの職員を呼んだ。そこで、Yの職員が本件居室を訪問すると、Xベッドに横たわっており、Yの職員に対して転倒した旨を告げた。
Yの職員がXの負傷状況を確認したところ、右額の腫れ、左額の腫れ及び内出血、左前腕部の内出血、右前腕部の内出血及び右ふくらはぎの内出血を確認した。
その後、XはA病院に搬送されたが、右急性硬膜下血腫を発症しており、同日及び翌10月1日に2回の開頭血腫除去術を受けたものの、意思の疎通は不可能となり、植物状態に近い状態となった。
Xは、同年11月29日にB病院に転院したが、意識を回復することはないまま、平成26年6月8日に急性硬膜下血腫を原因とした呼吸不全により死亡した。

第3 裁判所の判断
1 Yの安全配慮義務について
「本件契約は、要介護認定を受けた高齢者が本件施設に入居した上で、Yから介護サービスの提供を受けることを目的とするものであるから、Yは介護事業者として,本件契約に基づき,利用者であるXに対し、その能力に応じて具体的に予見することが可能な危険からその生命及び健康等を保護するよう配慮すべき義務を負うというべきである。」として、Yに安全配慮義務があることを認めた。
2 Yの過失について
(1) 本件事故の予見可能性について
ア トイレに行く際に転倒することについて
Yの職員において、Xがトイレ等に行く際に転倒する危険があるために見守りをする必要があると認識していたと認めることができること、19日前にもXが本件施設において居室内のトイレに一人で行こうとして転倒し、頭部打撲の傷害を負うという9月11日事故が発生しており、Yの職員もこのことを認識していたから、「Yは、Xがトイレに行こうとして歩行する際に転倒して頭部に傷害を負う可能性があることを具体的に予見することができたと認めることができる。」と判断した。
イ Xがナースコールをせずに一人でトイレに行こうとする可能性があることについて
Xは本件施設を最初に利用した平成22年12月21日の際から一人でトイレに行こうとしており、Yの職員からナースコールをするように求められていたこと、それにもかかわらず、Xはナースコールをせずに一人で歩いてトイレ等に行き続けており、9月11日事故の後においてもそれは変わらず、Yの職員はそのことを認識していたことなどから、「Yは、Xがナースコールをせずに一人でトイレに行こうとする可能性があることを具体的に予見していたと認めるのが相当である。」と判断した。
ウ Yの本件事故に対する予見可能性についての結論
「Yは、本件事故当時、Xがナースコールをせずに一人でトイレに行こうとする可能性があること、その際に転倒して頭部に傷害を負う可能性があることを具体的に予見することができたと認められる。さらに、Xが転倒した9月11日事故から本件事故が発生した同月30日まではわずか20日程度しか時間が経っていないことからすれば、Yは、前記可能性が相当に高いものであると予見することができたと認めるのが相当である。」として、Yの本件事故に対する具体的な予見可能性を積極的に肯定した。
(2) 具体的結果回避義務について - 離床センサーの設置について
裁判所は、離床センサーが転倒事故防止に一定の効果があることを認めつつ、「本件施設には離床センサーの器具が1台保管されており、本件事故当時は使用されていなかったから、被告は、本件居室にその離床センサーを設置することが可能であったと認められる。」とし、「Xにはナースコールを押さずに一人でトイレに行こうとして転倒する危険が存在していたところ、本件居室に離床センサーを設置すれば、Yの職員が、太郎がトイレ等に行くためにベッドから降りようとしていることに気付き、本件居室に駆けつけることによってXが転倒しないように見守ることができたのであって、前記危険を回避することができた可能性が高いと認めるのが相当である。
したがって、本件事故当時、Yは、Xがトイレに一人で行こうとして転倒する危険を回避するために離床センサーを設置することが義務付けられていたというべきであり、離床センサーを設置しなかったことは結果回避義務の違反に当たると認められる。」として、結果回義務違反を認めた。
3 過失相殺について
裁判所は、Yの過失や損害賠償責任を肯定したものの、「これまで認定した本件施設における被告による介護状況、本件事故が発生した経緯、本件事故の直前に9月11日事故が発生していたこと、Xの身体の状況、Yが介護サービスを業とする法人であることなどをしんしゃくすると、本件事故によってXに生じた損害につき、太郎には4割の過失があるというべきであり、これを過失相殺するのが相当である。」として、認定された損害賠償額から40%の減額をした額の支払いをYに命じた。

第4 本判決のポイント
1 本判決は、介護施設の利用者が、具体的な介護を受けること(本件でいえばナースコールをしてからのトイレへの付き添い介助)を望んでいない場合に、その介護をしなかったことにより事故が発生したとき、介護施設者に法的責任があるかという点が問われた事例といえます。
この点、本判決は、介護の専門家である介護事業者としては、介護利用者が、具体的な介護サービスを拒否した場合でも、当該介護サービスをしなかったことにより事故が発生したときの賠償責任を直ちに免れるものではないとしています。
そうすると、介護事業者としては、その施設利用者に対して当該介護サービスを受けるように説得し、それでもその施設利用者が当該介護サービスを受けることを拒否した場合は、事故防止のための代替手段を検討する必要があると思われます。
本件では、その代替手段として離床センサーを設置すべき義務を介護事業者に認めた点が特色です。
2 このように、介護利用者が介護サービスを受けることを拒否した場合にも、直ちに介護事業者の法的責任が免れないとすれば、介護事業者やその職員の負担は、かなり大きなものになります。
そこで、本判決では、施設利用者側に4割の過失相殺を認めて施設事業者が支払うべき損害賠償の額を減額しています。これは、専門家である施設事業者の法的責任を広く認めつつ、事故の原因が施設利用者側にもあるという本件の特殊性を踏まえて、賠償額を減額することにより、結論の具体的妥当性を諮ったものと理解することができます。

☆ 介護利用者が、事故防止のための介護サービスを受けることを拒否した場合の介護事業者側の対応として考えられるもの
1 粘り強くかつ丁寧に説明、説得する。
2 代替手段を検討、実施する。

 

スペシャルオリンピック、ご存知ですか?

弁護士コラム 2019年2月26日

スペシャルオリンピックは、知的発達障害のある人たちに、年間を通して様々なスポーツトレーニングとその成果の発表の場である競技会を提供している国際的なスポーツ組織です。

スペシャルオリンピック岐阜では、2019年も、陸上競技、フライングディスク、ボウリング、卓球、スキーなどを行う予定です。
また、アスリート(選手)とボランティアを募集しています。

多くの皆さんのご参加をお待ちしております。

スペシャルオリンピック日本(代表:有森裕子氏)の公式ホームページは、こちら。

スペシャルオリンピック岐阜のご案内は

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旧優生保護法の無料電話相談のご案内

弁護士コラム 2019年1月28日

岐阜県弁護士会は、1月30日の午前10時から午後3時まで、旧優生保護法による強制不妊手術などの被害者やその関係者の皆様を対象とした無料電話相談を行います。

旧優生保護法によって、昭和24(1949)年から平成8(1996)年までの間に,本人の同意のない強制的な優生手術が約1万6500件行われたとされています。

岐阜県内でも、昭和55年まで約400人の方が対象になっていました。
このうち、64人の方について手術の適否を検討した資料が岐阜県歴史資料館に残されています。また、県内の医療機関にも82人分の資料が残されていることが、昨年の岐阜県議会において伊藤英生議員の質問に答える形で、岐阜県により明らかにされました。

このような経緯の下、岐阜県弁護士会でも、過去に電話相談を実施しましたが、現在のところ、岐阜県内の被害者の方からの相談は寄せられていません。

このように、岐阜県内において被害者が発見されていないのは、被害者の方が高齢で、また、そのほとんどが障害をお持ちの方が多いこともあって、自ら電話をかけて相談するのが難しいという事情があると思われます。

そこで、今回の電話相談でも、被害者本人からだけでなく、そのご家族や入所されている施設の関係者の方々など、広く、情報をお寄せいただきたいと考えています。

どうか、宜しく、お願いいたします。

日  時 : 平成31年1月30日 午前10時~午後3時
電話番号 : 058-265-2850

ブログ「岐阜の弁護士 杉島健二」は、こちらです。

台風で隣から看板が飛んできて、ウチの屋根が壊れた。賠償請求したい!

弁護士コラム 2018年11月8日

今年は、強い台風がいくつかありました。

台風のせいで、「隣の家の看板が飛んできて屋根が壊れた。」、「隣の木の枝が折れて車に傷がついた。」という相談がいくつかありました。

このような場合、相手に賠償請求できるでしょうか?

一般に、相手に損害賠償請求できるのは、相手に故意または過失(不注意や落ち度)がある場合に限られ、結果として損害が生じた場合にすべて賠償請求できるわけではありません(民法709条)。
これは、過失責任の原則といって、人は、一定の注意を尽くして行動すれば、結果として他人に損害を及ぼしても賠償責任を負わないとする考え方です。落ち度がない場合にまで広く賠償責任を負わされてしまうとすれば(結果責任主義)、行動が委縮してしまい、個人の自由や社会の活性化が実現されなくなってしまうからです。

また、建物などの工作物や竹木から他人に損害が生じた場合は、それら物の設置または保存(工作物の場合)や栽植または支持(竹木の場合)に瑕疵がある場合に限って、賠償責任が発生するとされています(民法717条)。危険な物から生じる損害については、過失責任主義を限定し、物に瑕疵がある場合などに責任を拡大するものですが、これも損害が生じた場合すべてに賠償責任を認めるものではありません。

これらを冒頭の例に当てはめてみると、以下のようになります。

まず、建物の場合は、設置や保存に瑕疵があるとき、例えば、看板が外れかけの状態であったとか、建物自体が老朽化して倒壊の恐れがあるときなどであれば、賠償責任が認められることになります。

また、竹木の場合は、大きな枝が折れた状態で今にも落ちてきそうなときとか、木全体が朽ち果てて倒壊しそうなときなどであれば、賠償責任が認められることになります。

このような結論は、被害を被った人にとっては酷かとも思われますが、反面、建物や竹木の所有者の立場からは、被害の結果を完全に防がないと賠償責任を負わされてしまうのは酷ともいえるでしょう。

建物や竹木の所有者(や占有者)はそれらの物の管理に注意するとともに、被害を被りそうな人は保険に入るなどしてリスクを分散する必要があるでしょう。

「弁護士と司法書士の違い」 - 札幌弁護士会のホームページから

弁護士コラム 2016年10月5日

「弁護士と司法書士の違い。」、「弁護士にできること、司法書士にできないこと。」などについて、わかりやすく解説されています(札幌弁護士会ホームページ)。

以下は、札幌弁護士会のホームページ(http://www.satsuben.or.jp/faq/shoshi/shihou01.html)の抜粋です。

Q 認定司法書士は、どのような相談でも受けてもらえるのでしょうか?

A 認定司法書士は、簡易裁判所における訴訟手続の対象となる紛争であって、紛争の目的の価額が140万円を超えないものについてのみ、相談に応じることができます。簡易裁判所が「訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求」について裁判権を有することから、認定司法書士の受けることのできる法律相談にも「紛争の目的の価額が140万円を超えないもの」という上限があります。

したがって、認定司法書士は金額が140万円を超える事件について法律相談を受けることはできませんし、代理人となって相手方と交渉することもできません。また、当初、金額が140万円以下の事件という前提で法律相談や交渉の代理を始めたところ、途中で実は140万円を超える事件であることが明らかになった場合は、直ちに法律相談や交渉を中止しなければなりません。
なお、認定司法書士が代理できるのは、簡易裁判所における一定の手続とされています。したがって、認定司法書士は、金額が140万円を超えない手続であっても、地方裁判所や家庭裁判所における手続の代理をすることはできません。
さらに、認定司法書士は、簡易裁判所における以下の手続においても代理することはできません。

(1) 少額訴訟債権執行を除く強制執行に関する事項
(2) 借地非訟事件などの手続

弁護士には、以上のような制限はありません。

Q 司法書士に、離婚や養育費請求の法律相談を受けてもらえるのでしょうか?

A 認定司法書士であっても、簡易裁判所における訴訟手続の対象となる事件に関する法律相談しか受けられません。
したがって、そもそも金銭請求ではない離婚に関する法律相談を受けることはできません。また、養育費や財産分与の請求は、金額が140万円以下であっても家庭裁判所における手続の対象となる事件ですから、これらについても法律相談を受けることはできません。

弁護士には、以上のような制限はありません。

Q 司法書士に相続の法律相談を受けてもらえるのでしょうか?

A 認定司法書士であっても、簡易裁判所における訴訟手続の対象となる事件に関する相談しか受けられません。
交渉を要する遺産分割など、相続に関する事件は家庭裁判所における手続の対象とされています。したがって、認定司法書士がこれらの事件について法律相談を受けることはできません。

弁護士には、以上のような制限はありません。

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